new years day 08 jan





――仁王雅治×柳生比呂士



言葉は全て白い呼気に代わっていく。
海岸線を切り取る道路にも車は走っていない、年中休まず荷物を運んでいくトラックが時々轟音と共に光で夜闇を切り裂いていくだけだった。
道路の真ん中を我が物顔で歩きながら、二人分の足音と、からからとなる自転車のチェーンと、あわく発光する自転車のライトが、足もとを照らしている。
隣の男は夜闇に銀色の髪を流しながら、まっすぐ前を向いたままに歩いていた。
露出している節だった手は乾いているのか、そして寒いのか血色を失ってそこにある。

坂道を最後まで登り切る。
そして下り坂にシフトしているその道は坂の下で、二つに分かれていた。
からからとなっていた自転車の音が止まった、それに従って自分の足も止まる。
それは図られたかのように、一歩仁王が前に居る、何時もの立ち位置だった。

「なあ、柳生」
「なんですか仁王くん」

顔を窺えば、ゆっくりと仁王がこっちを向き視線をしっかりと合わせ、口角を持ち上げた。
それは悪戯を思いついた詐欺師仁王雅治の顔である。
そしてある意味柳生が一番毛嫌いし、ある意味一番奇麗だと思う表情だった。
反射で、眉根が寄る。
嫌な予感がしたというよりかは確信に近い。
彼の言葉は意表を突くというよりも柳生の心の襞を読み、それを代弁するかのような言葉が多い。
そしてその言葉は共通して仁王も持っている思考だった。
故に、己らは似ているのだ、と思っている。

「初詣、さぼらん?」

そういうと仁王は柳生の手をしっかりと握り引き寄せた。
冷たく節だった手、この手につかまれたら逃げられないことを柳生はよく知っている。
否、逃げる選択肢はすでに自分の中に存在しないのだ、どうしようもないことに。

「しょうがない人ですね、知りませんよ、怒られても」
「どうでもよかろう、今更じゃよ柳生」

仁王はわかっている、柳生も知っている。

「どうぞ何所へでも連れて行って下さい」
「ん、じゃ、いこか」

ちゃんと終わりがくることも、未来にお互いがいないことも。
一生大切にするほどの関係性でないことも。
それでも、こんなに似ている人に出会うことも、お互いを理解できる人間に出会うことがないことも、知っている。
だから、せめて今日くらいは、また今年も共に在れることを。


「あけましておめでとうございます、仁王」
「おめでとさん、柳生」


夜闇を切り裂く自転車のライトが一寸先しか照らさなくてもそれでもあなたがいる一年をまた生きる価値があるのだと。
感謝したくなる自分を呪い、そして笑うのだ、どうしようもなく。
どうしようも、なく。



愚か者の賛歌