一万分の一色に関する六つの話「青」 子ども達の永い青―立海三強 「次は勝たなくてはいけないな、真田、柳」 幸村は、着替えの手を止めず呟く。 真田は一足早く着替え終わり、壁にもたれてい、柳は机で日誌を書いていた。 他の部員はもうすでに帰っている、故に狭く、汗の臭いの充満した部屋にいるのは三人だけだった。 窓の外は夕暮れである、暮れかかった校庭にはもう人影はない。 空の端には闇がじわじわと滲んで来ていた、もう夜も遠くはない。 「次負けたら俺はお前たちを仲間と認めないよ、悪いがこの部活では「勝てる存在」 にしか、意味はない」 はっきりとした発音で、彼は続けた 勝てる存在に、アクセントの置かれたその言葉に、一瞬だけ二人は顔をあげ、また伏せた。 その言葉は一見、酷く突き放した暴力的なものに見える。 しかし、その真意を測れぬほど、三人の付き合いは短くなかった。 幸村は厳しい部長だが、けしてこのような暴言は他の部員には吐かない。 しかし、真田と柳に容赦がないのは、幸村がこの部内で唯一、実力を認めている相手であるからだった。 信頼の証であり、背中を預けるに相応しいと思っているゆえの言葉。 「だから、もうお前たちが負けることは許さない」 幸村の言葉に。 柳は顔も上げず、ああ、と答え。 真田も腕を組んだまま、わかったと答える。 その反応に、幸村はよろしい、と笑った。 初め、ラケットをとったのは、戯れだった。 遊戯のツールはいつの間にか、勝敗の付くものへと変わっていった。 相手に負けたくないと思い、競うように練習をした。 気づけば、肩を並べ共通の敵に向かう様になっていた。 他に仲間もできて行った。 しかし変わらないのは、三人の中にある言葉。 『このさんにんのだれがさいきょうか、きめようじゃないか』 幼い時の戯れの言葉が、まだ息づいているからこそ、この三人は対等であり、ライバルであり続けている。 どこかはわからない、しかし頂点に立った時、そこで最強が決められるように。 最強の二文字は背負い続けてはいけない約束だった、たとえどんな手段使っても。 「明日は絶対勝つ、そして、最強の称号を奪い返す」 「ああ」 「そうだな、そうでないと「最強」をとりあえないな」 三人は。 笑った、それはあの幼い約束をした、その時のように。 まるでおもちゃを取り合う様に、無邪気に。 これからも同じものを目指し走り続けていく。 それは、ラケットを置くときまで続く、少年たちの、青い日々。 Title////アルファイド様 |