※未来パロ。井原の結婚式の話







2人の結婚式








ちょうど、晴れた六月の土曜日。
石垣は海辺の綺麗な結婚式場に来ていた。
久々に出した黒い式服。白いネクタイ。それらを少し居心地の悪さを感じながらもしっかりと着て。
式場には他にも見慣れた―しかし懐かしい顔が集まっている。後輩に、先輩に同級生。久々に見る彼らはかつての面影を残しながらも記憶の中の彼らよりも幾許か大人になっている。
何故、こんな懐かしい顔が揃っているのか。その理由は今日は高校時代の友人、井原の結婚式だったからだ。
大学の友人や会社の同僚等、たくさん呼ぶべき人はいるだろうに井原は式から呼ぶのに高校の自転車競技部のメンバーを選んだ。
お前友達おらんのか。
そう辻に呆れたように言われていたが井原はだって、お前たちが一番大事な友達やしと口を尖らせていた。

「なんか、懐かしい顔が揃っとるねぇ」

後ろについてきた御堂筋が、待合室にいるメンバーの顔を見渡しながらげんなりとした口調でいう。
そんな御堂筋に石垣は苦笑した。

「ええやん、懐かしいやろ」
「悪いなんて言うてへんやろ。それにしても相変わらず仲ええんやね」
「井原もお前に会いたいんやて」

『御堂筋、来てくれると思う?』

井原は封筒に御堂筋の住所を書きながらそんなことを言った。
そんな井原に石垣は来るんちゃうかな?と返した。
そして辻とオレからも来るように言うとくよ、とも言った。
言葉通りに御堂筋に声をかけると御堂筋は呆れながらも、まあええかと返信はがきに出席と丸を付けたのだった。
そんななかめでたいことやなあ、とあきれた声で言う御堂筋にありがとうといいながら石垣は何故か胸が軋むのを感じた。
何故そんなふうになったのか。その理由は―。

「石垣くん?」

不意に眼前に御堂筋の顔が現れ、石垣はわっと声を上げる。
そして驚いた心臓を宥めながらなんや?と問えば御堂筋は不機嫌そうに目を細めた。

「式場、開場したらしいよ。いかんと」

見ればさっきまで待ちあい室を埋め尽くしていた人がいなくなっている。
係員が不審そうな顔でこっちを見ているのに石垣は慌てて御堂筋に声をかけた。

「すまん、はよいこ」

+ + +

式場にはいると御堂筋と石垣は新郎側の席の一番後ろの席に着いた。
大きなステンドグラス。温かみのある教会のような内装。

程なく新郎新婦が入場してくる。
割れんばかりの拍手、幸せそうな二人の表情。
それを見守る参列者の表情。

そんな光景を見ながら石垣はさっき胸に去来した不安がまたぶり返すのを感じていた。

御堂筋と石垣は高校を卒業して以来、恋人関係にあった。
年齢差があったから、学校で会うこともできず、上手く時間を作りながら逢瀬を重ね、二人の時間を積み上げてきた。
特に怖いものもなく、ただただ自分と相手がお互いを必要としている状況が心地よく、有体に言えば幸せだった。
しかし、どうしてもこの関係を石垣は誰にも言うことができなかった。
というのも、どうしても世間一般から見れば不自然な関係であったし、子孫が残せない不毛な関係ということもあり、親にも言うことはできなかった。
それでもいいと、そう石垣は思っている。今の状況は充分に幸せであるし、不満も特にない。
だが、時々、こうやって友人の結婚式等に出ていて、祝福されている姿を見た時に、どうも不安に襲われる。
自分がそうでないことを、ではなく、自分という存在が御堂筋から幸せを奪っているのではないかと。
この男にも「普通の幸せ」があったのではないかと。

そんなことを考えていた時だった。

聖歌の演奏が始まったタイミングでぐい、と隣に立っていた御堂筋が石垣の頬をつねった。
突然のことに振り仰ぐと、そこには呆れた様子の御堂筋の顔があった。
そして彼は少し身を屈めると周りに聞こえないように小さな声を出す。

「どうせ、まぁた下らんこと考えとるんやろ、キミ。辛気臭い顔しとるよ」

ケッコンシキにそんな顔してええの。
御堂筋の言葉に石垣は言葉を失う。
すれば御堂筋はやっぱりとため息を吐いた。

「親がどうやとか、ボクにはフツーの幸せを掴んでほしいとか」
「……」
「そういうの、要らん。キミは自分の幸せだけ考えとったらええよ」
「……」
「それにボクの幸せはボクが決める。キミが心配せんでもええ」
「……」
「そもそも、キミの幸せがここに無いんやったら別やけどなぁ?」

御堂筋は意地悪く、笑った。

「オレは」

『それでは、誓いの言葉に移らせていただきます』

石垣の言葉を遮るように神父が言葉を発した。
御堂筋は前を向き、石垣の方から視線を外してしまう。

『あなたは、健康なときも、そうでないときも、この人を愛し、この人を敬い、この人を慰め、この人を助け、その命の限り生涯、互いに愛と忠実を尽くすことを誓いますか?』
『誓います』

井原が力強く、そう答える。
それを聞きながら石垣は御堂筋の方に手を伸ばした。
そしてその大きな手を握る。

『あなたは、健康なときも、そうでないときも、この人を愛し、この人を敬い、この人を慰め、この人を助け、その命の限り生涯、互いに愛と忠実を尽くすことを誓いますか?』

神父が今度は井原の奥さんに対して、そう問いかける。
その瞬間、御堂筋は楽しそうに目を細めた。


そのとき握り返された手の力強さに。
きっと今日のことを一生忘れないのだろうと、石垣は思った。


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結婚式の会場で何やってんのって話ですが。笑
そして式の内容の順番めちゃめちゃですいません。













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