♯御石小説にフォロワーさんから言われた単語を付け足していく ずるい、ゲリラ豪雨、震える肩、失敗、提灯の明かり、ラムネ この五つの単語から書きました!単語下さった方ありがとうございます。 --------------------------------------------------------------------------------- たまにはこういうことがあっても面白い そんな風に笑えるのもまた一興 夏祭り 視界は滲んでいた。 滲み出すオレンジ。乱反射する光。きゃーという黄色い悲鳴。そんな混乱が渦巻く場所から少し離れた木の下。 そこに御堂筋と石垣は並んで座っている。 先ほどまで熱に浮かされたような気分でいた。 オレンジ色の提灯の明かり。色とりどりの浴衣。人々の笑い声。いろいろな食べ物の匂いが混じった空間。どこからか聞こえてくるやすいレコーダーの奏でる祭囃子。 騒がしいのが嫌いな彼をなんとか宥めすかして連れ出したのは地元の祭りだった。 半分は石垣が祭りが好きで、今年はまだ行けていなかったこと、そしてもう半分は御堂筋と夏の思い出ー自転車以外の、だーを一つでいい作りたかったから。なんでも好きなものおごったるから。そんなことを言いながら嫌がる彼の背中を押して。 たこ焼きを買って、じゃがバターも買った。二人で揃いの水色のガラス瓶のラムネも買った。ビー玉を落としてうまくそれを飲めない御堂筋にこうやるんやで、と見本を見せたり。 しかしそんな浮かれた気分はぽつり、とではなく、ばらばらと突如降り出した雨に一瞬でかき消された。 今や世界を席巻するのは雨音だ。 ざあざあと音を立てて天頂から落ちてきて、地面に叩きつけられる雨水。 おかげさまで着ていたTシャツはずぶ濡れ。手に持っていた食べ物もラムネの瓶を除いて全滅をしていた。 御堂筋と石垣は祭りの喧騒を一瞬にして混乱に陥れた雨から逃れるために少し枝のせりだした木の下、並んで幹に腰かけている。 ジーパンが汚れるのも気にならなかった。そもそも、既に跳ねた泥で裾は汚れている。 それは御堂筋も同様らしい。彼も特に頓着せず、足を延ばして楽な体制を取っていた。 しかし必ずしも機嫌がいいわけではないようだ。先程から彼はじっと押し黙ったままだった。 折角少し期限がよさそうだったのに。せめて早く雨が止めばいい。そんなことを思いながら先程まで晴れていた空を石垣は睨みつけた。 「失敗したわ。ちゃんと天気予報みとればよかった」 石垣は沈黙に耐えきれずため息交じりにそう呟いた。 すれば御堂筋はのっそりと視線を上げめんどくさそうに目を細めた。 「ほんま準備悪いわ」 「すまん」 「まあ、見とったところで関係ないよ。雨降る予報なんて出てなかったんやから」 にい、っと意地悪く笑うと御堂筋はラムネの瓶を煽る。 すればかちり、とビー玉が動き、また飲み口を塞いでしまった。 そんな御堂筋に石垣は困惑しながらも苦笑する。 へたやなあ。 そう言おうとした時だった。 ぞわりと肩が震えたと思った次の瞬間、くしゃみが雨音を一瞬かき消した。 思わず腕をさする。すればそこには思ったより冷えた肌の感触があった。 そして一回自覚してしまえば速い。 全身が冷えた感覚にぎゅう、と肩を抱いた。 (あかん、意外と寒いわ) 熱帯夜が続いていたから忘れていたが、雨が降れば気温は一気に下がる。 特に連日の猛暑日になれた体には意外と堪えるようだ。 寒さに耐えるように石垣は体を小さく丸める。 そして体育座りをして膝を抱き込んだ。 すれば、そんな石垣の肩を御堂筋が遠慮がちに叩いた。 見れば表情のない、大きな暗い双眸が珍しく気遣わしげにこちらを覗き込んでいた。 「石垣くぅん?」 「お、おう。すまんな驚かして。大丈夫やで」 「もうちょっとこっちよればええんちゃう」 「え?」 「えってなんや」 寒いんやろ。 「風邪ひいたらあかんのやないの」 「せやけど」 「嫌ならええよ」 そういわれたら寄らない訳にはいかない。 石垣はそう思うと少し、石垣の方へと距離を詰める。 と、その時だった。 乱暴に腕をひかれたと思えば、そのまま木の幹に押し付けられ、そのまま深く口づけられる。 長い舌が歯列をなぞり、石垣の舌と絡む。 何が起きたのか。 バクバクとなる心臓に、触れられる手から伝わる熱。 それに逆に熱が出たような錯覚に襲われながら、石垣は懸命に御堂筋の濡れたシャツを掴む。 「御堂筋、ずるい」 「何がや」 漸く許された呼吸の後、石垣がそういうと御堂筋は悪びれもなく首を傾げた。 さっきと同じ位置に座る彼はまるで先刻の出来事などなかったかのようだ。 石垣の中にはまだ、先ほどの熱が残っているというのに。 そう口を尖らせると彼は低く笑う。 「キミが悪いんやよ、石垣くん」 「オレ?」 「前髪、キモいんやもん」 風呂上がりのキミ、思い出すわ。 しれっと吐かれた言葉に、石垣は絶句する。 すれば御堂筋は楽しそうに笑った。 「石垣くん、雨やんだし。はよ、帰って続きしようや」 material:Sky Ruins |