たまにはそんな展開も、悪くはない





時に情熱的に






「仕掛けたん、キミやよ。石垣くん」

目の前の男にわざとねっとりとした言い方で声をかけると、彼はバツが悪そうに眉をひそめた。
ぬらりと光る彼の唇の端からは赤い血がわずかに滲んでいる。しかしそれに御堂筋は罪悪感など微塵も抱かない。というのも彼の自業自得でしかなかったからだ。
話が終わったと思い、踵を返したその瞬間、不意に襟元に伸ばされた手。勢いよく引き寄せられたことでぶつかった歯。絡めていくうちにいつのまにか溢れた唾液。口腔内に滲んだ鉄の味。そして、彼の熱いー。

「御堂筋」

彼の切れた口の端に指を這わせていると、焦れたように彼は御堂筋の名前を呼んだ。
どこか切実で、切羽詰まった声音に御堂筋は息を飲む。
彼がこのような様子を見せることは珍しい。彼はいつも年上然と御堂筋に対して接してくる。まるでできの悪い弟をなだめるように。そんな彼が。

「もっと」

せがむように襟元に伸ばされる手。
そしてすがるように自分のシャツを掴む。
それに理性が焼き切れ、嗜虐心が頭をもたげる。

「キモいよ、石垣くん」
「キモくてもええよ、だから」
「......ボク、責任とらんよ」

両手を伸ばし、彼の頬を両手で掴むと御堂筋は石垣を壁に押し付ける。
ごつ、と骨の当たる鈍い音が響いたが石垣はそんなことはどうでもいいらしく恍惚とした表情で御堂筋を見上げる。
そんな彼に御堂筋は口角を持ち上げながら、さっき彼がしたように噛み付くように唇を重ねた。

何度も角度を変え、深くまで舌を絡ませる。
石垣は苦しそうに何度か顔をそむけようとしたが、御堂筋の両手が顔を固定しており、それを許さない。
何をこんなに焦っているのか。
わずか自分が口を離せば寸暇を惜しむように身を乗り出す姿も。
自分にすがる彼の力がこもりすぎて色を失っている両手も。
布越しにでも感じられるお互いに昂りも。
どこか余裕のない石垣に御堂筋は逆に不安になりながら彼の、彼にしては珍しい衝動に付き合ってやる。

どれくらい時間が経っただろうか。
完全に息が上がり、興奮の閾値が超えたのか、はたまた半分酸欠状態になったからだろうか石垣の上体がぐらりと傾いだのを御堂筋は受け止める。
ぐったりと、しかし少し幸せそうに目を細める彼の体。それを御堂筋はしっかりと抱きしめる。

「なんなん、キミ」
「すまん、もうすぐ卒業やと思うと寂しなってしまってな。お前がさっきなんの気もなしに『さよなら』とかいうから」
「そういう意味やないやろ」
「そうやけど」

堪忍な。そう苦笑する彼に、御堂筋はため息をつく。全く。何が先輩だ。世話がやける。

「そんなん、誰彼構わずされたらかなわん。だからキミは卒業してもボクのそばに居ればええよ」

嬉しいやろ。
そう言うと彼は、少し嬉しそうに、笑った。









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