かつての安息の場所が
今もそうだとは限らないのだ。





僕が眠る場所






「何を言われた」

官兵衛が去ったところで、代わりに現れたのは三成だった。
三成は酷く歪な表情で吉継のことを見ている。
感情をそのままに出す男だ。吉継は目を伏せて頭を振った。

「なんでもない」
「何でもない訳はないだろう」

しつこく食い下がる男に吉継はため息を吐いた。
三成は一度追及を始めたら全くひかない。
正則や清正と三馬鹿と揶揄される原因はそういうところにあるのだろう。
あの中では明らかに一番聡明だろうに。
しかたなく、吉継は正直に話すこととした。あまり三成にはごまかしをしたくないという思いもある。

「高虎のことだ」
「高虎、藤堂のことか」
「火種を残すなと言われた。あらぬ疑いをかけられたくなければ、と」

吉継が言うと三成は想像通り不機嫌そうに表情を歪めた。
どうやら、三成も高虎が家康方に付いたことを知っているようだ。
その高虎と自分が浅井で共に在ったことも。
そして、その関係が深く、友と呼べるものであったことも。
故に、あの陰険であるがとてつもなく優秀な軍師が懸念している事象も。
三成は苛立った様子でため息を吐く。

「あの男も趣味が悪い」
「わかっている」
「秀吉様のために自分が悪役になればいいと思い込んでいる。そんなことをせずとも秀吉様が天下を取ることができるのに」

三成はそう毒づくと吉継に視線を向けた。
しかしその瞳がどこか優しげで吉継はすこし、驚いた。

「俺は、構わん」
「何がだ」
「お前と藤堂が友であり続けていても」
「・・・・・・」
「友というものは今日辞めようと思って辞められるものではない」
「・・・・・・」

まだ文のやり取りなどをしていれば別であるが、高虎と吉継は浅井が滅び、袂を別って以来、交友と呼べるものを結んでいない。
それでも、それを火種と呼ぶのだとすれば吉継はあの男を殺さねばならない。
しかしそれは骨が折れる。それに吉継はあの男には生きて欲しいと思っている。
敵であったとしても、その思いは変わらない。
きっとそれは高虎も同じだろう。寧ろ、高虎は共であることを辞めたいなどと言ったら眦を釣り上げて怒るに違いない。
そんなことを考えていた時だった。
すっと、三成の手が伸び、吉継の袖の裾を握った。
驚き視線を向けると、三成は俯いたまま、消え入るような声で、言った。

「吉継、一つ言っておく」
「三成」
「もし、万が一この先貴様が高虎とありたいと願う時が来れば、行けばいい」
「・・・・・・」
「だが、約束してくれ。裏切るときは必ず一言残していくと」
「・・・・・・」

勝手にいなくなることだけはやめてくれ。
三成はそういうと、手を離した。
そしてゆっくりと視線をあげるとまっすぐに吉継を見た。
そんな三成を見ながら吉継は目を細めた。

「三成、一つ言っておく」
「なんだ」
「俺は、お前を裏切らない」

何があっても、最後までお前と居よう。
そういうと三成は驚いたように目を見開き、次の瞬間顔を背けた。
吉継はその三成の耳が朱に染まっているのを見た。
素直でない男はまっすぐに信頼を見せられるとすぐにこうなる。
思わず笑うと三成はき、と吉継を睨みつけた。

「紛らわしい」
「勝手に先走ったのはお前だが」
「煩い!」

損をした気分だ。

足音を荒く立てながら歩き出した三成の背中を見ながら吉継はこっそり口角を持ち上げた。
この先、どんな困難が待ち受けていたとしても。
共に歩む道が破滅の未来しかなくても。
この不器用な男と共に。この命が果てるまで。
流されていくのも一興だと、そう思うのだ。



流され辿り着いた先で、共に眠るのはかつての友ではない。お前がいい。











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