夏が焼け落ちてゆく。 《季夏》 蝉の声が夏の残響のように響いていた。 つい先日まで、耳を壊す気なのかと疑念を抱きたくなるほどに暴力的に、彼らは存在を誇示していた。 過ぎ行く夏を惜しむように。 暑さを倍増させていた蝉の声は、もう、ただむなしく響くだけ。 数が減った所為だけではないだろうが、酷く投げやりに聞こえた。 空がくれる時間が前より早くなっていることに気付く。 空の端はもう漆黒に侵食を許し始めてい、赤の固まりはもうすでに地平の果てに埋没したようだった。 風だけが酷く秋めいていて、アンバランスな季節だと思った。 静かな住宅地に、響く、蝉の声と俺たちの声。 広く、手入れの行き届いた庭にはメンバーが思い思いの行動を取っていた。 柳は縁側で、スイカに大降りの包丁を振り下ろしていたし、幸村は嬉々と花火の包装をといていた。 真田は庭の水道からバケツに水を汲み出している。 そして、楽しそうにジャッカルと談笑する柳生と、それを縁側に座り、横目で追っている俺。 また、だ。 自己嫌悪を感じ、首を振る。 一番、そう一番近い場所にいたのに。 一番、そう一番近くから見ていたのに。 なぜ、こんなにも距離を感じる? ため息をつき、虚空を眺める。 答えなんてものはそこら辺にあるとか言われるけれど。 そんなものは絶対的に嘘でしかない。 そんな簡単に見つかるものならば、人生に苦労など感じはしないだろう。 取り留めのない思考は只拡大を続けそうで、眼の前に、視線を戻す。 彼はその視線に気付いた様子もなく、只会話だけが、続いていた。 何を話しているのだろうか。 「馬鹿」 足音が、背後にした。 振り返ろうと、付いていた手をずらそうと力の入れ方を変える。 その前に、頬を抓られた。 無遠慮な力に眉を顰めて見上げれば思った通りの顔がある。 想定外だったのはその顔が真剣で憐憫に満ちていた、ただそれだけだった。 銀色の男は一瞬何時ものふざけた表情を消し囁くように、諭すように笑い掛ける。 同情に満ちたその笑みに胸の痛みを自覚した。 「ばれるぜよ」 声は小さかった それでも脳髄を揺るがせるような威力を確かに内包しては、いる。 「アイツはそこまで鈍くはなかよ」 「・・・だったら・・・なんだって・・・」 何だって言うんだ。 均衡を崩せば良いのだろうか。 その向こうに行けば良いのだろうか。 笑顔を・・・失えば良いのだろうか。 弟に向けるような絶対的な信頼と寵愛。 昔から変わらないのは、きっと彼が俺に向ける絶対的な感情だけ。 身長も体格も性格も、全部、変化していった中で、唯一形を変えないもの。 変わればよかった、変わればよかったのに。 「あ〜カッコ悪」 「今更」 髪を乱雑に撫でられる。 睨むように見上げればそこに彼と同じ眼差しがあった。 慈しむような、優しい眼差し。 胸が、痛い。 「丸井くん、仁王くん」 声がしたほうを見やれば、にこりと柳生が微笑んでいた。 その隣では赤也が両手に色とりどりの花を咲かせている。 オレンジに赤、黄色に緑。 さまざまな色が彼を薄闇に照らし出す。 「丸井先輩、仁王先輩、いいんすか、全部やっちゃいますよ?」 「うわ、それ花火がかわいそうじゃろう?」 「どういういみっすか!!」 「お前火ぃ付けるだけつけて、一瞬で終わらせそうって言いたいんだろぃ?」 裸足のまま、縁側を降りた。 二人分の足音が、土の上を叩く。 「火傷しますよ」 「平気」 すっかり、日は落ちきっていた。 ライターが虚空に火の筋を描く。 そして誘発されるように導かれる色とりどりの炎。 花火は不思議だ、現実世界とはまた違う、独特な時間が其処には流れる。 真っ暗な世界に唯一浮かび上がる仮初の時間。 火が消えた瞬間に落ちる、場所。 鼻を刺す、火薬の匂い。 鼻腔の奥につんと残る。 夜闇を切り裂く光の雨。 光に照らされる、彼の笑顔。 あっという間に、そうそれは刹那というべき時間で手持ち花火の先から出る火は弱まり、灰が地面に落ちて火は消える。 焼け落ちてしまえばいい。 この時間も気持ちも思い出も想いも全て。 全て。 すべて。 いま、今、・・・ 今直ぐに。 そして変わり行く彼を呪い続ける、この汚い感情も、共に。 今、手元から落ちる最後の火の軌跡と、蝉の命と、落ち行く夏。 *end* 御免なさい。。。書きかけたのかなり前です・・・。 なつのおわーりー。夏の終わり好きです。同タイトルの森山くんの歌好きです。 |