もし夢なのだとしたら 泣きたくなる程に甘美な夢を… 《歩く、キミの隣り》 水面にオレンジ色の街が浮かんで見えた。 魚が水面を掠める度にその街は歪んで見えた。 テープレコーダーからは定番の音楽が流れ、がやがやと人の声が対岸まで聞こえて来る。 安っぽい茶番劇。 そして明日は消える夢の地。 腕を絡み合わせる恋人達と金魚掬いを夢中でやる少年と、二人で綿飴に齧り付く双子の姉妹。 色とりどりの浴衣に自慢げに閃く合成着色料の塊のようなリンゴ飴。 そして迷わないようにと繋ぎ合わせる手。 子供は親の手を取り、恋人達は双方の手を取り、友達同士の少女達も。 愕然と、する。 俯いて立ち止まった俺に彼は小さくどうしたととう。 2歩先から。 人込みに酔っただけ。 我ながらチープな言い訳だった。 人込みを抜ける時、彼の背中に溜め息を捧げ、指先を眺めて居た。 何度か閉じたりを繰り返す。 でも幾ら眺めても辿っても温もりを思い出す事は出来ない。 この世にないものを想像出来る程の、空想力は、ない。 だいぶ人も疎らになったところまで来ると2歩前を行っていた彼は歩みを止めて俺に向き合った。 対岸の光と闇が彼の顔に混在していた。 少し待ってろ。 そういうと彼は歩みを早くし、あっと言う間に目の前の闇に溶け込んでいった。 俺は堪らずへたりこむ。 草の湿った匂いと葉に付いた水滴がぱらりとジーンズの上に散る。 夢を見ているよう。 君にも触れられやしない夢を。 深く息を付く。 少し肺の閉塞感かんは取れたが胸の支えは取れそうになかった。 「千石」 ひやりと首筋に金属の冷たい感触がした。 仰げば彼がいる。 「ったく…てめぇが行こうとかゴネたくせにざまぁねぇな」 「あ…ゴメン」 手の中の缶ジュースを弄ぶ。 痺れる程に冷たい熱。 暗がりでじっと目を凝らせばコカコーラのラベルだった。 彼の方を見れば鼻で笑われた。 どうやら全てお見通しのようだ。 「馬鹿じゃねぇの?はじめっから分かりきってる事だろうが」 「ホントだよ」 プルタブを開ければ軽快な音と共に甘い香りが草の臭いを消した。 喉を焼くような感触。 笑みを零せば彼も笑う。 夢のようだ。 キミの優しさに優しく触れる。 優しさ序でにもう少しだけ。 シャツの襟を引き寄せそっと彼の額に額をつける。 ゆるい体温が体の内に潜り込む。 不快感はない。 暑さは気にならなかった。 「おい」 彼がゆるりと首を巡らせ辺りを窺うようにする。 それを阻止するようにもう一度襟を引き寄せ、耳に口を寄せる。 「きっと誰も見てないよ」 至近距離。 息が少し、頬を掠める。 「跡部君」 「あ?」 「来年も来よう」 「…無駄足はゴメンだせ?」 「うん、ちゃんとわかってる」 コーラの缶を飲み干して立上がる。 指先は結露した水滴で少し濡れていた。 手を、ズボンで拭く。 「跡部君、誰もいないよ」 彼は苦笑いを浮かべ、手を差し出す。 緩く伝わる優しい体温。 冷たくなった手にじんと響く。 そしてあるくはキミの2歩後ろの世界ではなく。 キミの隣り。 目が覚めた時、残るのは 儚い程の残響 と 左手に残る小さな痺れ END… ***** 甘くなりました…ね???? 跡部と千石はやるこたぁやってそうだけど定番ってやってないイメージで。 special thanks≫≫某H様。あんな素敵な絵をケガシテ申し訳ないです…m(_ _)m |