ずるずる 引き摺られて行く様に… 《畏怖》 室内はどこか薄暗くなっていた。 読んでいた本は傍らに落ちていて、拾い上げて見れば派手に5ページ程、大きく折れ曲がっていた。 特に気にいっているものでないことに安堵し、本を閉じる。 蝉の声がする。 そして何処からか遠雷が聞こえる。 手を畳の上に這わせれば携帯に触れた。 開けて見れば夕闇に世界が塗り変わるまでにまだ間はある。 ああ、夕立か。 「起きたか」 しゅと聞き慣れた音がし、赤い光がぼんやりと薄闇に浮かぶ。 一瞬だけ。 空気に嗅ぎ慣れた匂いがとけだす。 「すいません」 「構わない、静かだったから捗ったよ」 その言葉に彼の手元を見るがそこにあるのは紫煙だけだ。 目の前に本もなければ勉強道具も見当たらない。 なにが 問おうとしたがやめる。 きっと小さく微笑まれて煙に巻かれる。 思考か 計算か 想いか 緩慢に畳から体を起こす。 肩に痛みを感じる。 不自然な体勢で寝たからだろう、何か所かに凝りを感じた。 と、障子の向こうが光る。 一拍遅れて轟音が静寂を切り裂く。 そして、屋根を大きく、雨粒が跳ねる。 緩慢な思考回路はその音でやっと機能を回復させる。 今日は何をする筈だったか。 雨から避ける手立てを自分は果たして所有しているか。 再び、轟音が、する。 思考は、リセット、される。 「雷は不得手か」 「なんでですか??」 「いや…お前が畏れるものなど想像できなくてな」 「…」 「お前の畏れの対象になるものは一体なんなのだろうな」 揶揄するように 心配するように その言葉は優しく、厳しい 畏れ。 自分が畏れを抱くモノなどただ一つしかない。 そんなもの決まっている。 と、鈍い音が雨の音だけの世界に侵入する。 顔を、人工的な光が照らす。 目線をやれば彼は肯首する。 「はい」 『今どこ?呼び出しといて留守ってなんなんよ』 「…」 後ろから失笑がする。 向こうからは左耳に聞えるものを何倍にもした雨音がする。 「すいません…」 『で、何時帰って来るん?』 いますぐ、と言おうとし、傘がないことに気がつく。 一瞬狼狽し、彼に視線で助けを乞うたが無視された。 溜め息を付く。 雨の音は鋭さを増して行く。 「わかりません」 『は??』 「傘がないんです、帰りようがない」 『何処??』 「柳くんの家です」 雨音がする。 電話の向こうからも左耳からも雨の音がする。 『…今から行く』 雨音に掻き消されそうな声がした。 重く、低い声。 と、雷が落ちる。 左耳と右耳に落ちるタイムラグはほぼ無に近い。 ふつり、右耳から音が消えた。 「…柳くん」 「なんだ」 「やはり雷は怖いかもしれない」 彼は一瞬小さく声を上げて笑い、そういうと思ったと、呟く。 雨の中、聞こえない筈の足音が聞えて来るような気がして小さく、畏れが大きくなるのを自覚する。 畏れの対象 それは… 空が光り、轟音が轟く。 end… ***** なんか中途半端… 昨日昼寝から覚めた時の部屋の色とか外からの音が素敵だったから…か…きまし… 私風景描写駄目だ… |