365日。 8760時間。 525600分。 31536000秒。 《いつも》 テストが終わったまだ日が高い時刻。 珍しく、今日は部活が無い。 部長の気まぐれだろうか、榊先生の都合でも悪いのだろうか。 どっちにしろ、少しの憂鬱。 ゆっくりと歩く。 一分一秒でも凄く惜しい。 宍戸さんは今日のテストの出来について何もいわない。 後輩に聞かせても面白くないのか、出来が良くは無かったのかは定かでないけれど。 空を見上げる。 憎たらしいほどに空は晴れ、澄み切っている。 なんで。 口を開けば愚痴を零してしまいそうだった。 だから、只合鎚を打つ。 隣を行く宍戸さんはなんとく、上機嫌に見えた。 明日の球技大会が楽しみで仕方が無いのかもしれないなと思う。 体育は人一倍出来る人だから。 先刻から沢山のクラスメイトの名前が会話に上る。 こいつはパスが下手だけれど、クリアーだけなら天才的だとか。 あいつのシュートは正確で針の穴を通すようなコントロール力だとか。 皆、知らない先輩だった。 沢山の説明を宍戸さんは織り交ぜて話してくれるけれど。 自分の脳は200人を超える部員と、勉強と。 そして宍戸さんのことを覚えておくだけで精一杯なのだ。 頬が引きつる。 ずっと笑みを浮かべておくのはずいぶんと疲れるのだなと思う。 特に、作り笑いは。 部活があればいいのに。 そうしたらずっと一緒にいられる。 知らない先輩の名前に狼狽したり、頬の痛みを自覚なんかしないで、ただ。 笑って貴方の傍にいられる。 駅まで後何分くらいだろうか。 先輩の特訓に付き合わなければ良かっただろうか。 普段歩くのが早い宍戸さんの歩行ペースをさらに上げてしまった気がする。 只でさえある、一年という差異を、もっと広げたものにしている。 もっと有意義に過ごさなくては。 肩に掛かる、今日使わなくなってしまったラケットの重量。 息を吸う。 「宍戸さん!練習して帰りましょうよ!!」 さっきまで、クラスの話ばかりしていた宍戸さんは、一歩先でいきなり立ち止まった俺に怪訝そうな視線を投げる。 「テスト期間で腕鈍っちゃいました、相手してください」 「ああ?んだよ、明日から嫌でも練習だろうが」 「だって、家帰ってもどうせ暇なんですから」 「んたく、俺ラケット学校に置いてきちまったのによ」 「宍戸さん、それと俺腹減りました」 「・・・さっき、お前弁当食ってただろうが」 「でも減ったんですよ、どっかよって帰りましょうよ」 「しょうがねえなぁ・・・」 宍戸さんは苦笑すると、踵を返して、学校へともう一度歩き出す。 俺はその後姿に笑みを零し、ああ、ちゃんと笑えば頬の筋肉は痛くないのだな、と気付き、また頬が緩む。 少しでも時間を共有して 埋められない差異を埋めた気になって 少しでも、少しでも、そう少しでも 気休め程度の安心といわれてしまえばそれまでだけれど それでも、いつも、貴方の傍にいたいから。 end・・・ |