「お前たちほんと気持ち悪い」

 はき捨てるような言葉に柳生は思わず振り返った。部室には他の部員はいない。ただ、主将である少年が視線の先で本を読んでいた。

「何が、ですか」
「全部」

 柳生はため息をつくと視線を戻し、カッターシャツのボタンを留めていく。彼が突拍子もないことを言ってくるのはいつものことではないか、そう言い聞かせるように。
 そんな柳生の思惑も知ってか知らずか、彼は本のページを繰る手を止めず、続ける。

「鏡の向こう側に焦がれて、でも一つではないことに安堵してる感覚が俺には理解できない」

 柳生は脱いだユニフォームを軽くたたみ、鞄に突っ込んだ。ある意味図星だ、と思う。彼はやはり参謀とともにこの部活を支えてきた存在であると改めて思い知らされた気分だった。
 そして、仁王のことを思う。
 正反対の特性を持ち合わせているように見せて、その実、自分たちは相似だった。鏡の向こう側、確かにその表現は正しい。似ているから、近づいた。それでも彼に依存することだけはしない。一定の距離を保ちつつ、世界は共有しない。限りなく相似であったが、けして同一にはならない相手、それが仁王雅治だった。

「そうでしょうか」

 ばたん。
 ロッカーのドアを閉め、振り返れば、ゆうゆうとした表情で彼はやんわりと笑った。






「俺はそんなのでは我慢ならない」






「俺は、大切なものは全部自分の管理下に置いておきたい」


 弦一郎しかり、柳しかり。


「だから、俺はお前たちが理解できない、故に気持ちが悪い」

 世界を作り上げて、そこに閉じ込めて。出ていけなようにして、羽をもいで。自分の後ろに、自分の隣に、自分の手の中に。
 たとえば夏の日。
 たとえば勝利への執着。
 たとえば三強という地位。
 たとえば。

「ねえ、柳生」


 細められた双眸に、柳生は戦慄した。


「だから俺はお前たちが嫌いだ」




 自分と同一の世界を嗜好しないなんて、自分と同一の世界を相手に強要しないなんて。
 そこに同一性を求めないなんて。


「本当に気持ち悪い」



分間よく考えたんだけど





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後ろにも目を、を聞いてたらこんな幸村が浮かんだ。
実際、幸村が一番気持ち悪い。




title群青三メートル手前