交わらない軌道
交わらない世界






恒星と惑星








最初のきっかけは「目に付いたから」だった。

まるでいじめのきっかけと同じだが、本当にそれを理由に幸村は柳生に対して、付き合わないか、と持ちかけた。
二人で残っていた部室の中、まるで思いつきで言ったかのように言った幸村に柳生はそんな幸村に驚いたような表情を見せた。
そして怪訝そうに私で良いんですかと首をかしげた。
それに間髪を入れず、お前がいいんだと返した。

幸村は自他共に認める程に独占欲の塊だ。
基本的に自分の大切なものに対しては自分と同じ考え方を強いる。
例えば立海というチームを一番に考えろとか、全ての優先順位を立海が全国三連覇をすることにしろとかそういうことだ。
一番の犠牲者は言わずもがな真田と柳だろう。幸村は彼ら二人を約束で雁字搦めにした。
全ての行動の動機は「立海三連覇」そのために彼らの主義も主張も全て奪い取ったといっても過言ではない。
全員が同じ方向を向いている状態こそが何よりも幸村にとって重要なことなのだ。

しかし幸村の目から見ていて柳生はすこし、違う行動原理で動いているような気がする。
そうそれはまるで彼は自分の中にある確固とした理念に従って生きているのではないかと思うほどに。
勿論、柳生は幸村に言われたことはしっかりとやる。勝てと言われれば勝つし、負けろと言われたら負ける。
しかしどこまで行っても柳生が一番負けたくないのは仁王であり、自分の矜持に沿わないことは絶対にしない。
彼の行動原理は恐らく、立海というチームにもましてや幸村という人間にもないのだ。

だからこそ興味が湧いた。
柳生が自分といるということでどうなっていくのか、むしろ変わることがあるのか。
そして、繋ぎ止めたいと思った。
叶うことなら他のメンバーと同じように、自分という存在で染め上げて。

そう思って、いたのだが。

(全く、うまくいかないなあ)

幸村は深くため息をついた。
深い深いため息に、向かいで紅茶を飲んでいた柳生は目敏く顔を上げ、首をかしげた。

「どうしましたか、幸村くん。そんなため息をついて」
「思い通りにならないことが多くてね」
「君が思い通りにならないと思っていることは大抵すでに思い通りになっている気がしますけどね。ちなみに何が」
「お前だよ、お前」
「私、ですか」

「早く、俺のところに落ちてきなよ」

幸村の言葉に柳生はぱちぱちと瞬きをしもう落ちてるじゃないですか、と困ったように笑う。
それに幸村は嘘吐き、と舌を出した。

「ほんと、柳生ってムカつく」
「そういう風に言うのはキミだけですよ」

それでもきっと。
柳生が自分なしで生きれなくなってしまったら、きっと自分はこの男に興味をなくすのだろう。
高潔で、絶対な安定感を誇る、柳生という人間。
だからこそ、自分はこの男を手に入れたいと、自分の世界に引き入れたいと思ったのだろうから。
今の不安定な状況は正直イライラして、漠然と不安で気分が悪い。
それでもそれを楽しいとも思えるところを見ると自分は相当この人間にひかれているらしい。
悔しいことに。

幸村はまた、ため息をつく。
それにまた柳生は怪訝そうに今度はなんですかと呆れたように言う。

「なあ、柳生」
「はい」


「愛してるよ」


幸村の言葉に、柳生は一瞬虚をつかれたような顔をして、やがてありがとうございますと、笑った。