幾ら考えたとしても
これ以上に愛を伝えることのできるものがあるのだろうか








いサテンのリボンをかけて











「なんで、てめえがこんなとこにいるんだよ」


校門を出てすぐのところでしゃがみこんでいた人物に跡部は声をかけた。
白い学生服にオレンジの髪。
ただでさえ注目を浴びやすい制服に加えてこの髪の色、そして何よりも氷帝の目の前とくれば視線に入らない方がどうかしている。
学校に住み着いている猫とじゃれていたらしい千石は、突然落ちてきた声に顔をあげるとへらりと微笑んだ。
それは一年前から全く変わらない千石の笑い方だった。

「だって、キミ誕生日でしょー?お祝いしてあげようと思ってプレゼント持ってきてあげたよ」
「そうかよ」

跡部はため息を吐くと、右手を差し出した。
しかし当人は差し出された手に首を傾げて見せる。ふわりとオレンジの髪が揺れる。

「え、なに」
「だからプレゼントだろ、もらってやるから早く渡せ」
「え、えっと」

千石は焦ったように背中を跡部に向けると地面に置いていた鞄のチャックを開けた。
がちゃがちゃと懐かしい音が響くのを跡部は聞きながら、ため息を吐く。
ただでさえ校門前は目立つというのに、そこに佇むのは生徒会長の跡部。その上、一緒にいるのは派手な外見をした山吹中の生徒とくれば視線を集めてしまうのは必至だった。
視線を集めてしまうことに関しては抵抗がない跡部ではあったがしかし、あまり気分がいいものではない。
しかしそんなことをお構いなしといったように千石はマイペースに鞄の中を漁り、満足そうに振り返った。
そしてゆっくりと立ち上がると、跡部の手の上にその取り出したものを乗せる。

「はい」

跡部の手の上に乗せられたのは一本のテニスラケットだった。
それはよく知る千石の愛用しているメーカのラケットで、ところどころ傷も入っている。
必殺サーブを繰りだし、類まれなる動体視力で勝利を収める際に常に手に携えていたもの。
千石の、勲章。

「どういうつもりだ」
「だって跡部くんどうせ俺が選ぶようなアクセサリーとかハンカチとかマフラーとか手袋とかしないでしょ」
「そうだな」
「で、どうせすっごい有名なシェフにすっごいおいしいケーキとかディナーとか食べさせてもらうんでしょ」
「そうだな」
「そしたら」

「俺はこれくらいしかあげられないじゃない」

嬉しいでしょ。
千石はそういうとまた頭が悪そうな笑みを浮かべる。
久しぶりのラケットの感触に跡部は頬を緩ませる。
そういえば引退してからこの方、生徒会の引き継ぎ業務に忙殺されていて碌にテニスをできていなかったことを思い出す。
少し、千石の方が手が小さいのか余っているとはいえ、握りなれたグリップの感触に少し気分が高揚する。
そんな跡部の様子に千石は自慢げに胸を張った。

「テニスコートも予約しておきました」
「てめえにしたら上出来、だな」

跡部が踵を返せば、千石は慌てたようにラケットケースのチャックをしめ、それでも跡部の後ろに続いた。
登下校のルートとは学方向のスポーツセンターのテニスコート。
下校する生徒の波に二人で逆走していく。
手の中のグリップの感触を確かめながら、自分の必殺ショットの感触を思い出す。
コートの向こうで、楽しそうに目を輝かせる人物の姿を思い浮かべる。
繰り出されるショットの鋭さも、速さも重さも全て。
勝つイメージ、それを十分に描いてから跡部は千石を肩越しに振り替える。

「千石」
「ん?」
「俺様が勝ったら俺様の言うこと一つ聞け」
「俺が勝ったら何でも言うこと聞いてくれんの」
「それはねえ。いうことを聞くつもりもねえし、そもそも俺様がお前に負けるわけがない」
「うっわー絶対負けられないんですけど」
「覚悟しとけよ」

跡部の言葉にあからさまにため息をつき、うんざりとした表情で歩く千石に。
跡部はゆっくりと口角を持ち上げる。

フルコースのディナーに狼狽する姿を見てやるか、部屋にでも連れ込むか。
しかしそんなことよりも、ずっと前から、そしてこれからも。
コートの中に立つ彼を、そしてそのボールを。

来年も再来年も。
それはきっとこのつながりが失われるまで。

ずっと。





H appy birthday!Keigo.A 2012.10.4