concerto
    協奏曲





「軋識くん誕生日いつ?」

向かってくる敵を、手や足を使いながらいなし、確実に急所を狙いながら双識は大声で叫んだ。
その声の理由は自身を鼓舞する為でも味方を鼓舞する為でもない。
咆哮と阿鼻叫喚、それが響く今の状況ではそうでもしないと声が届かない。
おまけに会話の相手は鉄釘バットを縦横無尽に力任せに振り回す零崎軋識である、傍にいれば彼がいくら家族を殺さないとはいえ、無傷でいれるか自信はない。
足元に死体が増えれば増えるほど、二人の距離は離れて来ていた。
幾ら殺人鬼といえど、死体を思いっきり踏みつけながら戦うのは本意ではない。

「なんなんだこの事態にお前は」

大きく、バットが空気が裂く音、同時に飛び散る血飛沫、悲鳴。
その向こうから声が届く。

「いや、なんか、こんなの楽しいこと考えないとやってられないだろ、帰ったらパーティーとか思えばちょっとはやる気が」
「そういうおまえはいつなんだ」
「うーんと、俺は自分の生まれた日わからないんだよね」

敵の攻撃をかわしながら双識は苦笑する。
しかしのんきな会話をしている実、繰り出す攻撃は無駄もなく性格である。
敵が持っていた刃物を取ると正確に頸動脈に攻撃を閃かせる。
かといった次の瞬間、右から来た者の額に正確に肘を入れる。
八人ほど、たおしたところで、一度攻撃が緩んだ、第一陣を倒し切ったらしい。
その隙に軋識とあいた隙間を埋め、背中合わせに立つ。
離れ過ぎるのも得策ではないと知っている、二人がそれぞれ分断されてしまえば、袋叩きにあう可能性もあった。
おまけに気配と足音からするに第二陣は一陣の人数の比ではない。
敵はまさかあの人数でかかっても傷一つ負わせることができなかったことに慎重を期して、計画を練っているらしい、まだ攻めてくる気配はない。
その間に軋識と双識は体温が感じられるほど近距離に立ち、いつの間にか上がっていた息を落ちつける為に深く息を吸いながら、会話続けた。

「そうだったな、じゃあ、零崎になったのは何時だ」
「軋識くんは覚えていないの、俺が零崎になった日」
「知らねえよ、何で俺が双識の零崎になった日を覚えてなきゃいけねえんだ」
「いやいやそれは年上の家族として当然だろ!弟を祝ってあげなきゃとかないのかい」
「ねえな」
「そしてそれに、俺、檻にいた時は日にちとかの感覚なかったから、あの日がいつかもわからないんだけど」
「・・・そっか・・・ッ」

軋識の言葉が終わると同時に二人同時に深く足を踏み込み、双識は右足を強く蹴りだし、軋識はバットを頭の上に降りあげ、下ろした。
第二陣の攻撃開始である。
一応、お互いに背後を取られ、お互いが分断されないように細心の注意を払いながら、相手の間合いに入らぬようぎりぎりの立ち位置で、敵をなぎ倒していく。
それもあって少し、距離があいたのも手伝い、また叫ぶように軋識が、なあ、と双識を呼んだ。

「じゃあ、この戦争が終わったらその日をお前の誕生日にするか」
「いいね、おこがましいけれど素敵だよ、で、軋識くん、今日からそれが何日後か楽しみに指折り数えるから今日が何月何日か教えてくれないか」
「・・・・・・」
「うん?どうしたんだい?軋識くん」
「判らない」
「ん?なんて言ったの聞こえないよ軋識くん」
「判らない」
「うわあ・・・」
「ひひひ」
「うふふ」

雨の降りしきる、血まみれの戦場、絶対絶命というべきその状況で。
正確な攻撃を繰り出しながら殺人鬼は笑う。

「とにかく終わったら宴会ってことにするか、家族でパーっと」
「いいね、じゃあ今は取敢えず」

「まずは目の前の敵を殺すとするか」

軋識はバットを握り。
双識は腕を構え。

「零崎を始めよう」

それはただ、家族で笑うために。
そんなささやかな望みの為に、二人は。


戦争を生き抜く。



+++++++++
軋識くん、双識呼び萌える!!!!


material:七ツ森