※ナルミツ前提の偽装結婚ネタ。
 34歳まで独身だったら出世にも響きそうだし周りから結婚しろと煩そうなので妥協案を取るならという妄想。
 冥ちゃんと狼が可哀想で御剣がやっぱりだらしない感じ。
 何でも来い!という方のみにご覧いただけると幸いです。




















きっと手が届くことはないのだろう。
この先永遠に。



序章で終わる運命















「いったい何の当て付けなんだい、検事さんよう」

久しぶりに尋ねた彼の部屋は以前とは様変わりをしていた。
まずフロアが違う。そして部屋の広さが桁違いに広い。
何人を収容できるのかと思われるその部屋には重厚な彼の机と、そして高価そうな応接セットが一式設えられている。
そして両脇にはずらりと本棚が並んでおり、過去この検事が、この建物に所属していた検事たちが解決してきた事件のファイルと、法律に関する書籍がぎっしりとつめられていた。
そんな本棚に狼はこの部屋の主を押し付けていた。
その拍子に何冊かファイルがばらばらと落ちてしまっていたが狼にとってそれはどうでもいいことである。部屋の主―御剣怜侍検事局長はその様子に嫌そうに眉根を寄せたが、しかしそれだけだった。
御剣は眼鏡の奥の目を細め、狼を面倒くさそうに見やる。

「当て付けではない、予防線だ」
「予防線ねえ」
「この国ではある程度の立場の者が未婚であるということはいろいろめんどうなのだ」

そういうと御剣は狼に掴まれていた左手を強引に振りほどいた。
御剣の重労働を知らない綺麗な左手には薬指に指輪が嵌められていた。
それは数年前までの御剣の左手にはなかったものだ。
シンプルで簡素なデザイン。しかしそれが値の張るものであることを狼は知っていた。そしてその対の指輪をしている人物のことも。

『結婚したのよ』

つい先日、久しぶりに仕事がバッティングした彼女は左手の薬指にはめていた指輪について言及をした狼に向かってめんどくさそうな表情を作ると銀色の髪をかきあげた。
深い意味はない、と彼女は言った。
婚姻関係を結んだといってもそこに愛情があるわけでも肉体関係があるわけでもない。
あるのは兄弟愛に近い感情で、これはいろいろな面倒事を振り払うためのお守りなのだと彼女は言った。

『簡単なのよ、たった一枚の紙切れに名前と印鑑を付けばいいだけ。それで私は優秀な検事局長の妻という便利な肩書をもらえて、面倒な干渉からも逃げられる。レイジも一緒』
『そんなのものかねえ』
『私に結婚したいほど好きな人ができたときは、レイジとは離婚すればいいだけの話』

結婚しない人には厳しいけど、最近離婚には寛容なの私の国は。
そう、彼女は銀色の指輪を右手の人差し指でなぞりながら笑った。しかし、その横顔がどこか寂しげに見えたことにも狼は気付かないふりをした。

「冥もいい加減見合い話に飽き飽きしていたのだ。利害の一致だ」
「利害の一致ねえ」
「だからキミに責められるいわれはない」

御剣はそう言い切った。
しかし狼はその言葉をそのまま鵜呑みにはできなかった。
形式上の妻が欲しいのであれば御剣は引く手数多に違いない。それこそ誰だっていいはずだ。
幾ら周りに言い寄られ、見合いを進められるのが億劫であったとはいえ、狩魔冥を選ぶ必要などどう考えてもないのだ。
さすれば、冥を選択する理由は一つ。
何かがあったときにすぐに関係を解消ができる相手を妻としておくため。
そのことを了承する相手を、そこで別離をしても何ら疑問を周囲に持たれない相手を妻としておくため以外に考えられなかった。
そしておそらく、御剣が求めている相手を彼女は知っている。同時に認めている、もしくは許しているのだということも。

「なあアンタ」

誰を待っているんだ。

狼の言葉に御剣は一瞬驚いたように目を見張った。
しかしそれは一瞬。すぐにいつも通りの少し不機嫌そうな鋭い表情へと戻る。

「キミには関係がない」
「関係ない、まあ確かにそうだ。でもな」

「面白くねえとは思うぜ」

この苛立ちがどこから来るのかを狼は図りかねた。
狩魔冥にあのような寂しそうな諦めたような表情をさせた御剣にか、それを知ってもなお誰かを待ち続ける御剣にか。
そしてそこに入り込む資格も、理由も持たない自分にか。
たった一つの指輪。
それだけで全てを覆ってしまえる二人。
そこに何があるのかを、狼はしらない。知ることもできないのだろう。
そして。

「狼捜査官。そろそろくだらない話は辞めないか」

感情や思いをすっかりと眼鏡の向こうに隠して不敵に笑う男にどうしようもなく惹かれてしまう自分にも。

彼の待つ誰かが再び彼の前に現れたとき、この男は簡単にこの指輪を捨てるのだろうか。
そんなことを思いながら怜悧な感触を伝えるこの無機物の嵌った指を狼は強く握りこんだ。





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だらしない御剣に惹かれてやまない人たちの話。
ロウミツかなり好きなので幸せなロウミツも書きたいです。
でもかませ犬にするなら、となるとどうしてもロウを選択してしまいます。


material:Sky Ruins