※穂積さんと悪代官三人を妄想した成果。
 狩魔が御剣を引き取って育てたのは御剣信への復讐のため。
 厳徒局長はそんな復讐へと傾倒していく同期の狩魔に同調して加担していくという解釈。
 御剣の上との異常なまでの繋がりは売春行為の結果という捉え方です。
 無理そうと思ったら引き返していただけると幸いです。




















愛しているとか
一生大切にするとか
そんなもの生ぬるい、ねえそうはおもわない?



健やかな時も、病める時も






「やあ、カルマちゃん。最近泳いでる?」

暗い廊下に巌徒の明るい声が響いた。
じっとりと湿度の高く、暗い室内。それぞれの部屋にはいる人物は騒ぐことも談笑するでもなくひっそりと一人だけの時間を過ごす場所。
そんな監獄の一番奥の部屋のなかに閉じ込められている人に、巌徒は手を振った。
警察局長の権限で人払いはしたが、流石に模範囚と言っていいほど何の問題も起こさない人物とはいえ、死刑を宣告されている囚人の檻の中にはいることは許されなかった。
無論職権を乱用すればこんな檻を踏み越えることはたやすい。それでも巌徒はそこに立ち入ることはしなかった。二人の間にあるのは冷たい鉄格子だけだったが、しかしそれは今の二人の立場をこれ以上なく雄弁に語っていた。

巌徒の声に部屋の中で本を読んでいた男は緩慢に顔をあげた。そして不機嫌そうな表情を巌徒に向ける。その表情に巌徒は口角を持ち上げた。少なくともこの建物に押し込まれている人の中で巌徒にこのような表情を向ける人物は他にはいないだろう。
天才、完璧、無敗。すべての輝かしい称号を手にいれた元検事の姿がそこにはあった 。

「泳げると思うのか、我輩が」
「あれ?バンちゃんと一緒に泳ぎに行ったことなかった?」
「そういう意味ではない」

貴様には日本語が通じないと見える、そう狩魔は呟くと壁に背を預けた。
薄汚れた壁に背を預ける彼は、かつての華美な洋服は纏ってはいない。
それでも、貴族然とした高貴な雰囲気はまったく損なわれない。
出会った時からずっと。こうして社会的に最下層と言ってもいい、死刑囚という立場に落ちてしまっても。

「それにしてもあんな新米弁護士に負けるなんてカルマちゃんも腕が落ちた?僕が捏造した証拠がないと勝てないのかな?」
「・・・。」
「あ、それとももしかして捕まるつもりだったの」

指先を彼の肩の方へと向ける。
狩魔は巌徒の指先を追うこともなく、ゆっくりと目を閉じた。
15年前、彼に打ち込まれた楔はすでにそこにはない。彼を復讐に駆り立て、闇へと落した一つの鉛玉。それを事件の証拠として摘出した後、彼の表情はまるで憑き物が落ちたかのように穏やかになってしまった。

御剣信に今まで自分たちが積み上げてきた牙城に傷を入れられ、一柳万才にプライドを崩され、御剣伶侍に打ち込まれた楔。
そして混乱の中、彼が引いた撃鉄。
すべてから逃げてきた狩魔豪の業を、厳徒が捉えた瞬間、巌徒は彼に加担することに決めていた。あの双眸が憎悪の色に染まっているのを見つけたあの瞬間から。
御剣信の遺児を彼と正反対の最悪の検事に育て上げ、汚名と疑惑を背負ったまま、父親殺しの犯人として破滅させること。
御剣の名前をこの世界で最も汚らわしい名前に染め上げること。
二人の間に約束もなければ契約すらなかった。それでもお互いが同じものを共有していることは分かっていたのだった。
そのために厳徒は中央の警察局にはいかず地方の警察局長であり続けた。そして彼は地方検事局の検事であり続けたのだ。
御剣のために黒い証拠を揃えることも平気でやったし、黒い噂を助長するために高官に御剣を抱かせる手筈だって整えてやった。
嘗ての狩魔を彷彿とさせる姿に御剣を育て上げ、黒い噂で装飾し、あとは最後、木槌でその虚像を叩き壊し踏みつけるだけでよかったはずだったのに。

その時彼の目からはあの憎悪の炎が消えうせ、15年前の彼に戻るのだろうとそう思っていたのに。

『もう、いい』

すべての裁判が終わったあと、狩魔豪は巌徒だけに聞こえるようにそう言った。
それに自分が何と返したかを巌徒は思い出せない。きっと普段通りにそう、とでも答えたのだろう。
しかし、それで終わらせるにはこの15年は長すぎた。彼が御剣に抱いていた憎悪はいつの間にか自分の感情になっていた。
そしてそれで終わらせることができないくらいに巌徒の生き方においてそれが深く影を落としていたのだった。

スラックスの中に手を滑らせる。
そこには小さなビニール袋に入ったある証拠が入っていた。
巌徒はそれを取り出し、彼にも見えるように高く掲げた。中に入っているものが格子にぶつかり、かちりと高い音を立てる。
狩魔はそれを始めは興味なさそうに見やっていたが、やがて袋に書かれている文字を認めたのであろう、表情を一変させた。
困惑と、動揺と嫌悪と憎悪と。それは二人がずっと共有してきた感情。
先ほどまでの穏やかさのない、その表情に巌徒はほくそ笑む。
そうだよ、そうでなくちゃあ。
巌徒はそれを手にしたまま、高らかに笑った。

君の犯した罪。
君を苦しめる楔。
それらは君の身体から消えても、この世界からは消えない。



『DL6号事件。
狩魔豪の体内から摘出』



「カルマちゃん君はもういいって言ったけど、カルマちゃんの復讐、僕が引き受けるから」

だってまだそんな顔出来るじゃない。

「御剣の名前はやっぱり地におとしてあげる」



「だから、見ててよ、そこで」



だから最後までどうか、恨み続けていてよ。
今更逃げるなんて許さないんだから。
だって僕たちは一蓮托生、そうでしょう?



ねえいっそ骨まで
同じ憎悪で黒く染まったまま




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厳徒局長の異常なまでの御剣への憎悪から妄想。
狩魔の15年間は厳徒局長と一柳会長の助力あってこそかと。
あの悪代官三人が同期とか怖い。

material:Sky Ruins