手を繋いで歩いていた。 道に迷わないように、その手をずっと。




手をお放しよ






(ずるい)

闇が侵食している室内で、息を殺していた。
夜半の部屋は、そして自分以外が住まない家は寒いのだと改めて実感し、冥は羽毛布団を鼻の下まで持ち上げた。
それもそのはずだ、祖国にいる間なんだかんだいって自分の周りにはいろいろな人がいた。
従順な捜査官たち、騒がしく、問題ばかり起こす刑事。調子のいい弁護士に、生意気な助手。
そして、あの検事。

(やっと超えられると思ったのに)

やっとあの男を超えられる、そう思って意気揚々とあの「成歩堂龍一」を倒しに行ったというのに。
返り討ちにあったどころか、格の違いを見せつけられるだけの結果になってしまった。

(やっと、隣を歩けると思ったのに)

今思えば。 手を引かれていたのは何時だって自分だった。
いつからか自分の弟弟子は、自分に背中ばかりを見せていたように思う。
時に開いてしまった距離に繋いだ手が離れそうになったりしながらもずっとその背中について行っていたつもりだったけれど。
いつ間にか、繋いだ手は離れていた、御剣怜侍は、自分の知らない道を歩いていたのだった。

失くした手を、私はいつも探していた。

(私も歩き出さなくてはいけない)

冥はカードを両手でそっと包む。
それはあの男とあの弁護士が、様々な人物と関わりの中で真実を見つけ出した証だった。
そしてあの男が、あの孤高の男が、昔の友人たちと、相棒の刑事と、新しい人々の出会いで変わった証だった。
あの男の後ろばかりついていた自分も変わらなくてはいけないのだと、改めて思う。
狩魔の呪縛から独りで抜け出すことができたように。

(でも今は)

春を夢見て眠る動物たちのように。
芽生えを待つ小さな種子のように。
深い夜の帳の中静かに眠りにつく。


きっと、もうすぐ美しい世界に目覚める。















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冥の御剣に対する劣等感の感じ方がたまらなく好きです。

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