※超短編。 ※もういい加減に殺すなっていう話です。笑









視界を覆う赤に、毛利元就は嘆息した。
体は鉛のように重量を増し、動く気配もない。 寧ろ徐々に、力が抜けてくのがわかった。
慣れ親しんだ厳島の床に倒れ伏している自分の傍で波の音がしていた。
穏やかなその音色に、重くなる意識をゆだねたくなる、それほどに今、心は穏やかである。
床と伝っていく己から流れ出る液体の色を認め、元就は口角を僅かに持ち上げた。

(流れているではないか、痴れ者め)

あの鬼とは違い、進んで先陣に立たぬ毛利は殆ど傷を負うことはなかった。
非道と称される策略を張り巡らせ、呆れる数の兵の犠牲を以て戦場を蹂躙するのが常であった。
自らは机上で空論を唱え、それを戦場で試す。
その元就のやり方に異論を唱えたのはほかならぬ、長曾我部元親、西海の鬼と呼ばれる男であった。

『お前のやり方は気にくわねえ、血も涙もないお前は人間ですらねえよ』

そう、鬼は言った。
鬼と世間に呼ばれ、化けもの扱いをされる男はそういった。
その言葉を思い出し、元就は乾いた喉で、微かに笑う。
手についた赤と、厳島を汚す赤に、そして体内から流れだし続ける赤に、焦燥ではなく、寧ろ安堵に近い優越感をかみしめながら、元就は嗤った。

(みろ、長曾我部、貴様がなんと言おうと我は人ぞ)

あの男が流す血は何色だろうか。
薄れゆく意識では到底深く記憶をたどるほどの余力もない。
すぐに蘇らぬその要素に、無駄に長い間あの男と時間を消費したというのに、肝心なところは記憶に焼き付いていないのだと知る。
記憶機構がいい加減であるのも人間の特権だろうか、人外は千という年のこともはっきりと記憶しているような気がする。
深い傷はむしろ神経を麻痺させ痛みを届けることなく、網膜に焼きついた鬼の霞んだ後ろ姿に、静かな優越感を覚えながら。
血も涙もない氷の面と評された智将、毛利元就は、ただ、笑う。




だが彼らは人ではなく



++++++++++
めちゃめちゃ短くてすいません。
アルファイド様のお題で拍手様に書いてたんですが拍手と呼べないくらい長くなってしまったのがちらほら出てきたので。笑