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「貴様と竜は似ておるな」


ふと、目の前で庭を眺めていた男が呟いた。
この男は独り言を言うことは皆無である、故にこれは会話だろうと元親は思った。
よりによって、と元親は頭を抱える。
自分より少し若輩なあの男は確かに自分に似たところを持っているとは思う、しかし基本的にこの男が興味を持つタイプではない。

「奴も相当おかしなやつよ、退屈せぬ」
「まぁ、確かに、な」

男は緩やかに目を細めた。
それは多分己が中国を訪れなかった際にでも外交故に奥州の竜に会いでもしたためだろう、過去を懐古するようなそれで、少し楽しそうにも見える。
周囲に興味を向けるようし向けたのは確かに自分である、しかし改めて男がほかのものに向ける興味を見ると、酷く苛立つ。
ああ幼い、鬼は自己嫌悪にさいなまれる。
男はといえばいつものように鬼に興味を向けず、淡々と会話、もとい独り言を続けた。

「片目も、そうだなその傲慢さもよくにておる」
「おうおうそうか」
「奴も使えもせぬ駒を大切にするしな」

後は、と指折り数える男の姿に再び苛立つ。
まるで自分と竜を一致させようとしているかのように感じる。
そのような下らぬ事をする男でないのはわかっている、しかし一度浮かんだ疑念は消えず、思わず言葉が喉を突いて出た。

「じゃああれか、竜は鬼の代わりになるか」

言葉は酷く冷酷に響き、男は驚いたように一瞬目を開いた。
そして怪訝そうに眉を寄せ、何か探るように思考をしばらく回転させた後、言葉に思い当たったのかため息を吐いた。

「痴れ者が」

「誰も貴様と竜が相似とは言っておらぬ」
「…まぁそうだが」
「共通項より相違点の方が多かろう」

「それに代用が利くのであれば貴様みたいに図体のでかい男をわざわざ側に置いたりせぬわ」

言葉に目を見開けば、男はふんと鼻を鳴らし、そっぽを向いた。
久方振りに聞いた男の一見素直とは言えぬ素直な言葉に謀らずとも笑みが顔に上った。
そして腕を伸ばして引き寄せる。
男はとくに反発も見せず大人しく腕に収まった。
この華奢な体躯を抱き込めるのもあの男との違い、この男が言うところのでかい図体か、と鬼は思った。
そして共通項が多くあるとはいえ、結局この男はそれ以外の点で選んでいるのだという当たり前のことに改めて気づく。
こうして大人しく腕の中にいることも、隣に置いておくことも、全て男の意志であり、判断である。
そう思えば愛しさが緩く心の縁を広がり、鬼は一層に力を込める。

「元就」
「なんだ」
「…いや…なんでもねぇ」


名を呼び満足げに笑った鬼に、智将は冷たく一瞥を浴びせかけ、餓鬼めが…と苦々しく呟いた。