与、返礼




赤が、桃色が、白が降る。

縁側で書に視線を落とす人に、それらはばらばらと降り注いだ。
白い肌に赤は酷く映え、桃色は寄り添い、白はとけ込んだ。
華奢な体躯を所有する世間では著名な中国の知将はゆっくりとその事象を引き起こした元親に視線を移した。
眉間に寄った皺と不機嫌そうに歪められた唇。
唐突な来訪に対する小言を頂戴する前にその男の膝に巻物を落とした。
それは外交に必要なもので意味のない来訪でないことを示す。

男は普段なら一つため息をつき、巻物を一番に手に取る。
しかし今日は少し違った。
巻物を側に置くと手を伸ばし縁側に散らばるそれらに指を伸ばした。
赤、桃、白。
そして赤いものを取り上げ膝の上に置いた。
それらは摘み取られてから少し日数がたっているためか、潮風に晒されたためか少しみずみずしさを欠いている、しかし色は鮮やかである。

「長曾我部、これをどうしたのだ」
「ああ、四国ではもう花が咲き始めたんだが中国はまだだろう、そう思って持ってきた」
「ほう、貴様にしては珍しく気が利く」
「うるせぇよ」

一枚一枚の花弁を男は華奢な手で優しく撫でる。
元就は花を愛でる、草を愛でる、静かに愛でる。
しかし生を持つものは愛でない。
植物は愛で、動物は見下す男のスタンスに男の抱える孤独を見いだし少し元親は後悔した。
元親の摘んだ花を子細に観察した後、男はやはり巻物には手も触れず、その横に大ぶりな赤い花を置いた。
そして無言で席を外す。
なれた唐突な男の行動に特に興味も沸かず元親はその場に仰向けに寝ころぶ。
綺麗に晴れた蒼天、そこにゆるりと薫る四国の花。
同時に喚起される男の孤独に元親は誤ったかと舌打ちした。

自己嫌悪と春の近づいた日差しにゆるゆると睡魔が這いよる。
と、ぎしり、足音が耳元で止まった。

「下衆が…貴様のような大柄な男がこのようなところに寝ころぶな、邪魔だ」

足を蹴られる。
見れば四国の白い花が、鬼の右足に潰されている。
慌てて体を他の物を潰さぬように起こすと知将は満足げに微笑んだ。

久方ぶりに見た知将の笑顔とその手にある物に元親は目を見張った。

「珍しいな」
「花には酒、だろう、長曾我部」

徳利一本、杯は二つ。
それを二人の間に置き、花とを挟むようにして男は座った。
そしてゆっくりと注がれるそれに甘く高貴な香が立ち上る。
ゆらりと揺れる水面に弾く日輪の光。

「春を我に届けた貴様への礼だ」

ありがたくいただくがいい、そういうともう一度、唇を歪め笑みを象った。




奇しくも暦は三月十四日。
春の近づく、穏やかな午後の昼下がりであった。