手有難う御座います。
の多い季節なので、雨の奇跡、虹の七色のお題で小話を用意しました。
つぶしに楽しんでいただければ幸いです。
(各ジャンルから独断と偏見で7組のお話)



れ目のない曇天の向こうから降り続く世界の涙に。
め息をつくあなたと、その向こうの色を望む僕と。


色七題



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1、 滴るほどのを込めて


「遅かったら、心配になってきちゃったじゃないか」

そういうと男は上がった息を何とか抑える様に、肩をすくめた。
頭上に生い茂る緑は雨粒を弾いて大きな音を立てる、故に男の声は寸での所でかき消されるところだった。
普段森は、自分たちにとって人の気配を察知するにも音を感じ分けるのにも格好のフィールドといえたが、どうやら雨の日は向かぬらしい。
会話すら億劫だった、もっともこれが針葉樹の林なら話は変わってくるのだろうが。

「時間になっても連絡は入らないし、頑張って突破してきてあげたら倒れているし」
「心配したっちゃか」
「するに決まってるだろう!」

そういって不機嫌そうな表情を作る男は呆れたように林の中で仰向けに倒れている男にため息を吐く。
雨粒は断続的に顔をたたく、故に目を開けているのすら億劫だったが、男の表情がめったに見られるものではなく、無理矢理に目を開けていた。
いつも奇麗にセットされているオールバックの髪形は雨と汗で解れていく筋も顔にかかっている。
眼鏡も雨粒が張り付いて既に視力をあげる役割すら果たしていないようだ、尤も伊達眼鏡だから元々意味などないのだが。
しかしそんなことは大して問題ではないし、興味もない。
軋識の目を引いたのは色の乏しい林の中でもはっきりと彼を染める、ある色だった。
黒いスーツに深く染み込んでいる分は黒に同化し判別はできない。
しかし、そのから覗く袖、襟、眼鏡、顔にべったりと張り付いている色だった。
いつもの戦闘では傷一つ負わない彼が。
いつもの戦闘では帰ってきたそれを一滴も浴びない彼が。

「だらしないっちゃね、二十人目の地獄とあろうものが」

そう笑うと、彼は一瞬きょとんとし、そして苦笑した。

「誰の所為だと思っているんだい君は」
「きひひ」
「さあ、アス、帰ろう」

そういって差し出された華奢な手をも染めたその色に。
そして自分の為に彼がその色に染まった事実に。
不本意ながらも、どうにも言い表せない感情が心の底辺に広がるのを自覚した。


それが忌むべき、そのだとしても。

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< 戯言から軋識と双識。
なかなか進展しない二人が好き。




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2、 いつか見たときみの涙


「決勝で戦おうって約束したの誰だっけ」
「先に約束破ったのお前じゃねえか」
「俺ひとりだったら決勝行けてたよ」
「どういう理屈だよ、桃城にも神尾にも負けたくせに」

そこで呆れたように笑えば、あ、笑ったと、千石も破顔した。
夕日に照らされた道をラケットケースを背負いながら久しぶりに肩を並べて歩いていた。
こんなことはジュニア選抜以来かも知れないと、漠然と思った。
不本意で短くなった髪には風が抜け、何所か清々しい。
それは千石が笑い飛ばしてくれた所為かも知れない、一発横っ面をはたいてやったがそれで吹っ切れた気もする。

「まあ、どう繕ったって跡部くんも年下に負けた仲間じゃないの」
「それをいうな」

いいじゃん、お揃いでしょ。
そういって笑う千石にあの日桃城に負けて涙をこらえていた姿が重なった。
その時彼の気持ちを自分は理解してやれなかった、慰めることも。
それでも今ならわかる、今、彼が慰めようとしてくれていることも。
今思えば千石はいつも自分のことを応援してくれていた気がした、今まで気がつかなかったが。
そのことを気がつかなかったことに、今日だけは甘えていてもいいような気がした、不思議と。

「じゃあどうせだし、最強にダサい人決定戦しましょうか」
「あ〜ん?お前が俺に勝てると思ってんのか?」
「いや勝てるでしょ、だって俺が負けたのは二年だけど、跡部くんは一年生だよ?」
「てめえ」
「あはは」

そういって駆け出した背を追いながらこの下らない試合が終わったら礼の一つくらい言ってやろうとそう決める。
その時あいつがどんな顔をするか見ものだと一人ほくそ笑みながら。


いつだって自分の前にあった、これからもある色。
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庭球王子から跡部と千石。ひっさびさに二人を書いてみました。
橙といったらきよすみしかいないもの!海は約束くらいの意味で。(無理があるな


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3、 それは太陽にもていた


「真田は太陽みたいだと、時々思う」

最高気温が35度を軽く凌駕した真夏日だった。
あまりの暑さと部活後だからという理由で糖分を欲した幸村がコンビニで買ったアイスを食べながら徐に話し出した。
唐突な言葉に隣でペットボトルの水を飲んでいた柳は言葉の代わりに怪訝そうな視線を向ける。
それはそんな殊勝な発言を幸村がするわけがないという柳の独断と偏見に起因した視線だった。
それに幸村は悠然と微笑んで、ほんとうだよ、と返す。

「望んでもいないのに律儀に毎日空に上がって理不尽な熱気を振りまくだろう」

本当に鬱陶しい。

吐き捨てると幸村は溶けて雫を落としそうになっているアイスに舌を這わせる。
しかし凝固していくために必要な温度を維持できなくなったのだろう、次々と雫を落としそうになるそれにうんざりしたのだろうか、柄がほとんどべたべたになっているそれを柳に差し出すと、普段の速度で歩きだした。
一瞬どうすべきか逡巡し、それを歯で削り取りながらそれを追った。
水色の液体が、肘を伝って、焼けたアスファルトに落ちて、消えた。

「だが幸村」

前歯が冷たさに耐えきれなくなり、そして零れ続ける雫を諦めた柳は五歩先を行く幸村に呼びかける。
幸村はゆっくりと振り返る、濃紺の髪が揺れる。
その時見せたその表情に、ああ自明なのだな、とは分かった。
そして言うまでもなく、幸村は柳の言葉を継いだ。

「わかっているさ、それをもこめて、真田は太陽なんだ」

幸村は諦めたように、それでも幸せそうに笑う


仰いだ空にあるは、青の中それでも普遍的なを湛える、一つの光源体。


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庭球王子から三強。真田が大好きな柳と幸村でした。
最近三強が愛おしくて死にそうです。笑





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4、 進めサインはいつも


「普通ならとっくに死刑ですよ」

天下の往来で特に何の前触れもなく呟いた少女に少年は鼻で笑った。
そんなの対した数ではないといいたいのかも知れない。
彼の物差しで測れば十数人など一つまみの塩ほどの価値しかないのかも知れない。
それはそうだ、彼はマンション一棟の生命体を消し去ったこともあるのだから。

「そりゃ、普通を人間社会とした場合だろうが」
「普通人間社会が普通って定義されると思いますけどね」
「そうだけどよ、社会は所詮俺達に帰属すら許しちゃいねーんだから、全く関係ねーだろ」
「うなー私はそんな社会に属していた身ですけどねー」

そうだった、そういうふうに少年は笑う。
それにそうですよ、と反論すれば少年はバツの悪そうな顔をした。

「まあいいじゃねえか、社会が許さなくても、俺達は生きてるんだからよ」
「ギリギリですけどねー」
「あーなんだよ、不満なのか?伊織ちゃんはよー」

「うふふ、満足に決まってるじゃないですか」

だって私達は生きている、笑っている。
家族がいてその為に戦って死ぬことができる。
誰かに必要とされて、誰かを必要としている。
社会にうとまれて、排除されて蔑まれる、そんな存在だとしても。
存在が、立っている立ち位置が、人としてもぎりぎりなラインだとしても。
笑って生きることを私達は許されているのだから。


譬え点滅していたところでそれは結局めのサイン。

++++++ 戯言から人識と舞織ちゃんでした。
二人は報われないながらもそれでも幸せに生きていてほしいのです。





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5、 小さなせはすぐ近くに


眼前に広がる海にひとつため息をついた。
快晴、そしていつも荒れている海は今、不気味なほど静かに圧倒的な質量をたたえそこにあった。
そこに腰まで浸かりながら、さっきまで腕の中にあった確かな質量を思い出す。
華奢な体をしていた、それでも一国を背負っていた彼の命は重かった。
それは悲しいほどに。

永遠に手に入らぬことは知っていた、それは初めて会ったその瞬間から。
敵だった、いつか倒さねばならぬその存在だった。
己らが一番大切にしている瀬戸内を、競いあう、その存在だった。
相容れぬとはしっていた、不毛だとも知っていた。
それでも焦がれた、焦がれてしまった、いつか手に入れたいと願った。
だから瀬戸内の占有を理由に攻め込み、捕虜にでもしてやればいいと、考えた。

それでも。

「そこで見守っていろ、この海は俺が守ってやるから」

対岸を焦がれ続けたその原因は今や深い海に抱かれ、そこから世界を見ている。
いままで得がたかったものを永遠になくしたような喪失感と同時に、もう手に入らずともそばにいることに変な安堵を感じる自分に。
鬼は気づかなかったふりをした。


圧倒的な彼のに溶けた最愛の人。

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BASARAから瀬戸内でした。
毛利を殺すのがマイブームになってる最近です。笑






6、 闇夜にけてゆくふたり


「あんたの髪の色、好きだぜ」

光秀の白い髪を指先でいじりながら竜は満足そうに笑った。
くるくると巻き付けては、解く、幼子のようなその仕草を繰り返しながら竜は徐々にその口角をあげていく。
そんな竜の様子に呆れながら光秀はされるがままにしていた。
ひとつは夏の熱気にとうに疲れ反抗するのを放棄していたのと、根源的にその性質を光秀は好んでいるからであった。
何故、と問うことはなかった、それは既に自明であったからに他ならない。

「独眼竜はどうも自虐的ですね」
「そうかい」
「ええ、とっても」

そういって、光秀は眼帯の上から政宗の右目を押さえた。
それによって一瞬政宗の頬が引きつったが、それでも次の瞬間には緩む。
劣等の証の象徴、それはまさしく光秀と政宗にとってはそうである。
その欠陥部分を持っているからこそ竜は死神を愛するのだと光秀は知っている。
その劣等を憎む心が共通しているから、と。

(まあ、私は特に劣等部分を憎んではいませんが)

それでもその振りを続けているのは単に竜の隣が居心地がいいからなのだろう。
劣等を共有することでの後ろ向きな連帯感。
他の人間には見せない竜の暗い性質。
それを享受できているのが何よりも政宗を面白いものとする、光秀の理由だった。

誰よりも光の下が似合う奇麗なその人が、夜陰に沈んだ部屋で醜さを露呈する姿に、
光秀は言葉では言い表せない優越感を抱くのだ。


貴方と私はきっと同じ

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BASARAから政宗と光秀でした。
今回は傷を舐め合う、がテーマな二人です。





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7、 あまりにきれいな明け

「散歩に行かん?」

夜中の十二時に時計の針がさしかからんとした時に唐突に仁王から電話がかかってきた。
それはなにか、恒例行事と化しているそれで、そう問われたら柳生はいいですよとこたえることにしている。
自転車で片道三十分の海を見下ろせる高台へ歩いていく。
特に会話もせずに黙々と。
高台につくと適当なところに座ってじっと朝日を待つ。
仁王は木に凭れ、自分はベンチに座る事にしている。
そしてくだらない話をしながら、暇をつぶす。

「ねえ仁王くん、何で毎年こんな無駄なこと」

毎年、理由を尋ねるがちゃんと答えてもらったためしはない。
それでもなんとなく同じ気持ちなのだろうということはわかっていた。
わかっていた、それでもこれも形骸化した恒例行事だった、理由を尋ねる。

「さあ、ふざけんのも最後かもしれんからの」
「高校に上がる時もおんなじこと言ってましたよ」
「そうだったか?」
「ついでに一昨年も、去年も」

言葉に仁王は肩をすくめた。

「かわっとらんってことじゃろう、俺もお前も」
「そうですね」

でも変わらない保証はない。

そういって逃げてきただけかもしれないと柳生は思う。
そういって、お互いがいなくなった時に傷付かないように防衛しているだけなのだろう。
きっとそうなのだ、そしてきっと仁王もその事に気づいてはいる。
それでもきっと、変わらないで欲しいとは言えない。
そういった時に変わってしまわない保証はないのだ。
所詮は弱虫なのだろう、彼も自分も。

「柳生、夜が明ける」

声に顔を上げれば、水平線の向こうから太陽が顔を出そうとしていた。
濃紺の空に光が射す、色が変わっていく。

「なあ、柳生」
「なんですか」
「来年も同じ事しとったらどうする」
「さあ、取敢えず」

「変わらないですね、って笑ってあげますよ」

それでも永遠に見えた黒が光一つでこんなに色を変えてしまう事実に。
きっと不変な物などこの世にはないのだと、そう思わずにはいられない。
そしてそうであってほしいと、そう思うのだ。


不変を打ち消す、美しい夜明けの

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庭球王子から仁王と柳生。
こいつらを書くとだらだら長くなるので短く切ってみました。笑(駄目な子!


→END


れ目からのぞいた七色に、貴方が笑う。
の笑顔に僕も笑う。

色七題―了


題は酸性キャンディーさまからお借りいたしました。
(リンクはサイト内のlinkのtitleに貼ってあります)

後まで読んででくださってありがとうございました!
れからもCinemathepueと来を宜しくお願いします。