new years day 08 jan





――長曾我部元親×毛利元就



「兄貴どこいくんすか」

宴会の会場から抜け、港にたどり着いたとき、船番をしていた男が声をかけてきた。
遠くからは城で行われている新年を祝う宴会の喧騒が僅かに響いていた。
人影のない闇に沈んだ港は波も穏やかで、その水面にはきらきらと月光が浮かんでいる。

「ちょっとな」

そのうちの一つの船に、足をかける。
返る反発と、水の感触が靴の上からでも感じられた。
船の上から振り返ると、怪訝そうな顔で見上げて来ている。
それに、笑顔で返した。

「ちょっくら野暮用だ、なあに、酔いつぶれた野郎どもが目を覚ます前にはかえってくらあ」
「兄貴・・・っ」
「じゃあな」

両手に提げていた酒びんの一つを男に投げかけ、あいた手で、帆を操る太い紐に手をかけ、強く引く。
有無を言わさず、酒びんに一瞬男が意識を払った隙に、船は夜風に乗り水面を滑りだしていた。
遠ざかる岸部に脳を占めるは水の音と冷たい風になる。
波と風に船が乗ったのを確認すると、羽織をしっかりと合わせ、縁に腰をかけ空を仰ぐ。
同時に方位は、天頂に浮かぶ星で確認する。
矢張りだ、と元親は笑った。
白い呼気が、地平の果てにも天頂にも、雲ひとつない澄んだ星空に散った。


『ここからみる、昇陽が一番美しいのだ』


そう、厳島で言った男を思い出す。
朝一番に蛻の殻になっていた床に気付く目を覚ました朝に、探した先の場所で。
男はそういった。
緩く温まっていく空気に、白い肌に光が射す様に、その光を一身に浴び、僅かに頬を緩ませるその横顔に。


(明日の朝は晴れるぜ毛利)


それを伝えたかった、そう言い訳をして。
ただ、あの孤独な男の新しい年の一番初めの朝に、せめても隣にいてやろうと、船を駆る。
お前が生きる新しい一年、それがまったくの孤独ではないことを、暗に示してやろうと、そう、ほくそ笑みながら。


初日の出と共に新年の挨拶を



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――零崎軋識×零崎双識



(ちゃんとここにいる)

リビングのソファーの上で眠りこんでいる男を見下ろしながら軋識は安堵したのか、はたまた絶望したのか自分でも判別の付かぬため息をついた。
ソファーの傍にある机の上にはさっきまで飲み散らかしていた缶や瓶が転がっていた。
それは自分と針金細工が買ってきたもので、そこに音楽家も加わって飲んだものだった。
あまりアルコールを摂取しない己らだったが、例外なく酔いつぶれたところを見ると相当飲んだらしい。
かくいう軋識も、つけっぱなしにしていたテレビが派手にカウントダウンをしてくれたおかげで目が覚めたばかりである。
まだ、頭の芯には鈍い痛みが、ある。

ソファーの上に体を深く沈め、寝入っている男は起きる気配もない。
いつも、きっちりとして在る黒い髪はいく筋も顔にかかってい、愛用の眼鏡も床に落ちているし、シャツにも深く皺が寄っている。
しかし幸せそうな寝顔に、思わず軋識は頬を緩ませずにはいられなかった。
微温湯のような毎日に安住しているかに見える日々は、実は死と隣り合わせ。
明日、自分の命も、相手の命も消えるかもしれない、その中で。
それでもこうやって、一年の最期にお互いが、みんなが、今年もなんともなかったように。
一般人がするように酒を飲んで年末番組を見て、その他愛のない時間を。
またこうやって過ごせたことに、感謝をするのだ。

(まだ、ちゃんとここにいる)

まだこの男は血を流していない。
まだこの男の中を血は巡っている。
まだこの男は呼吸をして居る。
まだこの男は自殺志願を揮える。
まだこの男は家族を守りつづける。

まだここに生きて、存在している。

そして・・・。

「レン」

願わくば今年も同様に。
家族の皆に向ける物と同様のもので構わないから。
どうか。

俺の隣で笑っていて。

家族と暴君を選びきれない故に言葉にして懇願することはできなかった。
それでもどうか、来年もこうやって一緒に新年を迎えられるように、そう、祈らずにはいられない。
ただ、ただ。


誰にも聞こえないささやかな祈



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――仁王雅治×柳生比呂士



言葉は全て白い呼気に代わっていく。
海岸線を切り取る道路にも車は走っていない、年中休まず荷物を運んでいくトラックが時々轟音と共に光で夜闇を切り裂いていくだけだった。
道路の真ん中を我が物顔で歩きながら、二人分の足音と、からからとなる自転車のチェーンと、あわく発光する自転車のライトが、足もとを照らしている。
隣の男は夜闇に銀色の髪を流しながら、まっすぐ前を向いたままに歩いていた。
露出している節だった手は乾いているのか、そして寒いのか血色を失ってそこにある。

坂道を最後まで登り切る。
そして下り坂にシフトしているその道は坂の下で、二つに分かれていた。
からからとなっていた自転車の音が止まった、それに従って自分の足も止まる。
それは図られたかのように、一歩仁王が前に居る、何時もの立ち位置だった。

「なあ、柳生」
「なんですか仁王くん」

顔を窺えば、ゆっくりと仁王がこっちを向き視線をしっかりと合わせ、口角を持ち上げた。
それは悪戯を思いついた詐欺師仁王雅治の顔である。
そしてある意味柳生が一番毛嫌いし、ある意味一番奇麗だと思う表情だった。
反射で、眉根が寄る。
嫌な予感がしたというよりかは確信に近い。
彼の言葉は意表を突くというよりも柳生の心の襞を読み、それを代弁するかのような言葉が多い。
そしてその言葉は共通して仁王も持っている思考だった。
故に、己らは似ているのだ、と思っている。

「初詣、さぼらん?」

そういうと仁王は柳生の手をしっかりと握り引き寄せた。
冷たく節だった手、この手につかまれたら逃げられないことを柳生はよく知っている。
否、逃げる選択肢はすでに自分の中に存在しないのだ、どうしようもないことに。

「しょうがない人ですね、知りませんよ、怒られても」
「どうでもよかろう、今更じゃよ柳生」

仁王はわかっている、柳生も知っている。

「どうぞ何所へでも連れて行って下さい」
「ん、じゃ、いこか」

ちゃんと終わりがくることも、未来にお互いがいないことも。
一生大切にするほどの関係性でないことも。
それでも、こんなに似ている人に出会うことも、お互いを理解できる人間に出会うことがないことも、知っている。
だから、せめて今日くらいは、また今年も共に在れることを。


「あけましておめでとうございます、仁王」
「おめでとさん、柳生」


夜闇を切り裂く自転車のライトが一寸先しか照らさなくてもそれでもあなたがいる一年をまた生きる価値があるのだと。
感謝したくなる自分を呪い、そして笑うのだ、どうしようもなく。
どうしようも、なく。



愚か者の賛歌



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初詣は毎年立海全員で、っていうのが来の脳内設定なので当然のようにそうなってます。笑