唯一で絶対で
世界の全て




ささやかにねがう









「聞いておるのか、佐助」

憮然とした声に佐助は顔を上げた。そこには不機嫌そうに佐助をみやる幸村の双眸がある。
その視線にため息を吐きながら、聞いていますよ、と返す。

「てかさ、俺様その場所にいたでしょ。ちゃんとみてたよ。聞かなくてもわかるんですけど」
「そうはいうが佐助。お前は実際にうちあったわけではないであろう」
「まあ、それはそうですけどね」

幸村が話しているのは先程まで刃を交えていた一人の男のことだった。
偶然、戦場からの帰り道に行き合った男。 青を背負う、奥州の竜ー伊達政宗のことだった。
出会った瞬間、もっと言えば気配を感じた瞬間、幸村も伊達もお互いの家臣の静止も振り切り、槍を、刀を交えた。
ぶつかる、赤と青の光。空気を裂くのではないかと思う程に強く、金属の音が響き渡った。
肌が震えるほどの殺気。背筋に寒気が走る程の闘気。
それらが渦巻く中で、幸村と伊達は満足そうに笑っていた。お互いにお互いの喉元に食らいついて噛み千切らんとするその狂気の中で。
宿命というより、むしろ運命だ。
諦めたように竜の右目はそんなことをいった。
それくらい、真田と伊達にとってお互いの存在は強烈で、魅力的なのだろう。であってしまったら刀を交えずにはいられない位に。最後決着がつくその最後の瞬間まで。

佐助も初めはそんな二人に呆れながら微笑ましく思っていた。好敵手という存在は武人にとって己の実力を昇華していく上でなくてはならない存在ではある。
だから、そんな人物に幸村が出会えたことを好ましく思った。そう、それは武田信玄と上杉謙信がそうであるように。
しかし、時間が経つにつれ徐々にその心境が変わっていくのを佐助は否応無しに感じていた。
幸村は伊達とのことを話すとき、ひどく楽しそうにする。そしてその表情は、佐助が幼い頃から見てきた中の幸村のどんな表情にも当てはまらないのだった。
父親に褒められた時でも、兄に勝った時にも親方様に武田の後継者として認められた時に見せたものでもない、表情。
誇らしさや、自慢をしたいというものでも、嬉しさを写したものでもない。
陶酔するような、恍惚としたようなそんな表情。
ただ、あの伊達政宗と言う男だけが幸村の感情を導ける場所にある表情。それを幸村は浮かべるのだ。
それが、どうしようもなく。

(なんか、面白くないんだよね)

そして、何よりも面白くないのが佐助ではあの二人の間に割り込むことができないことだった。
それはきっと、独眼竜の家臣の片倉も、この世界で名を馳せる石田でも徳川でもできないことだ。
もっと言えば、幸村の敬愛する武田信玄だって二人の間には入ることはできない。
幸村は元々、絵に描いたような武人肌の人間ではある。それでも、全く融通が利かない訳ではない。正々堂々一対一の場面でも佐助が幸村の危機と判ずればそこに割り込んでも何も言わないし、寧ろ命を救ったことを感謝されるときだってある。
しかし、独眼竜の前では幸村は只管に武人で在ろうとする。他者の介入など許さない。彼らはお互いを相手とした時のみ、国でも民でもなく、己の矜持のためだけにその武器を振るうのだ。
どれだけ佐助が幸村の傍にいても、彼にとって大切な忍びでもその矜持に割り込むことは許されないのだ。

譬え、今日のように独眼竜の六爪が幸村の体を抉ったとしても。

晒を巻かれた幸村はそれでも痛みなど感じていないのか、熱に浮かされたような表情を浮かべながら一方的に捲し立てる。
如何に伊達の攻撃が鋭かったのか、自分が返した一撃が重かったのか。
伊達の反撃の速さを、自分の体勢の立て直す早さを。
そして、気が済むまで話し終るとにっこりと笑った。

「佐助、次こそは決着をつけて見せるぞ」
「はいはい、楽しみにしてますよっと」
「その時はお前も共にいて欲しい。お前には、政宗殿を倒すところを、一番近くで見届けてもらわぬと困る」

幸村の言葉に、佐助は苦笑しながら幸村から目を逸らした。
それは幸村に自分の中に燻る名前のわからぬ焦燥を悟られたくなかったからだった。
意味もなく泣きたくなる心を押さえながら、佐助は心の中で小さく祈る。

(ねえ、大将。お願いだから)

独眼竜なんかにその命を捧げないで。
あの六爪に貴方の命を掴ませないで。

それが幸村の幸福だと知っているからこそ。




(最後まで俺様の主のままでいてよ、幸村様)



貴方には絶対に聞かせることはない、ちいさな。









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舞台『戦国BASARA3 咎狂わし絆』の真田主従を見ていて思ったこと小話。
舞台の真田がすごい、佐助を大切にしているんだけど、政宗に対してライバル心むき出しで。
佐助と小十郎はそれを呆れながら見ているんだけど、それに時々割りこんじゃう佐助が可愛くて。
幸村が政宗に対してライバル心むき出しなのを微笑ましく思いながらきっと、自分がそこに割り込んで幸村のことを助けて死ぬという選択が取れない蒼紅の関係性に凄い、焦燥感というかもやもやしているんじゃないかしらという妄想を掻き立てられたので。
舞台の真田主従、ちょうかわいい。

















material:Sky Ruins